こんにちは!
本棚に眠っていた本を読み直しました。
「翻訳教室」という本です。
以前ちょこっと読んで最後まで読まずに置いておいたのですが、今回全部読みました。
こちらの本は、東大文学部の「翻訳演習」という授業の内容を文字化したもので、臨場感たっぷりです。
東大文学部の学生が英語から日本語に訳した文について、先生がいろいろコメントをしていくという形式です。東大の学生さんたちだから、文法的に理解していないなんてことはないけれど、「しっくりくる日本語」にする作業って本当に大変だな、と感じます。でも同時にこんなに楽しい作業はないな、とも思います。
取り上げられている文学作品は、スチュアート・ダイべック、ヘミングウェイ、レベッカ・ブラウンなどです。村上春樹さんの「かえるくん、東京を救う」の英訳を学生たちが再び日本語に訳す授業もありました。その後、村上春樹さんが、授業にゲスト出演していました。
イタロ・カルヴィーノの名前を見た時、「イタリア人じゃん!」と思いましたが、こちらも英訳されたものを日本語に訳す授業でした。その英訳の良し悪しについては、文学者の和田忠彦先生に聞いたら、「まあ、いいんじゃない」と言われたというエピソードもあり、途中クスッとしてしまいました。大学生のころ、和田先生の授業を受けていて、クールでちょっと毒舌で、とても素敵な先生だったのを思い出したからです。
この本は「翻訳」の本なので、受験生にはあまり関係がないように思われるかもしれません。受験生のする「和訳」は「翻訳」ではないので。
でも、大学受験の和訳レベルでも、「単語帳や辞書にある日本語を無理やり当てはめてみたけれど、何か不自然な日本語になってしまう」とか「変な日本語になるから思い切って意訳してみたら、全然違う意味になってしまった」という経験をしている受験生は多いと思います。
今、国立大学や慶應文学部志望の生徒さんを何人か見ていますが、賢い子たちなので、構文通りに直訳することは皆できるんですよね。おそらく、この子たちが受験で戦う子たちもそうで、レベルはそんなに変わらないんでしょう。だから、構文をきちんと理解して直訳しても、たいして差がつかないんだろうな、と思います。
その中で、きちんと文意に合う日本語がチョイスできていたら、キラリと光る答案になるのではないでしょうか。
もちろん、大学受験の和訳で、この本に書かれていることをすべて実践する必要はないでしょう。
でも、すぐに使えるテクニックはたくさん載っているし、日本語と英語の違いを深く理解することができて単純に英語の勉強になるし、日本語のちょっとした違いにも敏感になるし、決して無駄にはならないと思います。
何より、参考書のような堅苦しい感じではなく、暇な時間に1章ずつサクッと読むだけでも学びが多いのが良いですね。
この本を読んでいて、あらためて、「英文をゆっくり日本語にする作業って楽しいことなんだな」としみじみ思いました。大学入試は速読ばかり重視されますが、じっくり英語に味わう時間を持つことが、結局英語を深く理解することになるし、英語が好きな子も増えるような気がしますね。